7/03/2013

「春になるとこの池の水はよく溢れる」

岡本果倫 松本真希 三津繁郎
2013年7月13(土)14(日)15(月) / 20(土)21(日)22(月) 
土日月のみOPEN 
11:00-18:00 
@斧とケーブル


私達のアトリエで展覧会「春になるとこの池の水はよく溢れる」
を開催します。
※会期は6日間と短めですが、自分たちのスペースなので、18時以降、他の日や会期後も
ご連絡頂ければ開けることができるかもしれません。ご希望の方は早めにご連絡ください。
matsumoto.maki(at)gmail.com








岡本果倫  Karin Okamoto
1983年生まれ 2005年多摩美術大学絵画学科版画専攻 卒業

お乳のような、甘いかおりがたちのぼる。 
白茶けたベージュの土を見る。遠くに黄色い砂ぼこり、その向こうには、 
下品なくらいの赤い花が小さな森のように群生しているのが見えた。 
目を凝らしていると、砂ぼこりは落下してゆき、赤い花の群がちかづいてくる。 
花の中心にすいこまれ、世界の結晶のような花たちの、ぱちぱちと、金色に瞬いて、
あおく、あまく、抱擁しあっているのがわかった。 
群生の前には、大きなくぼみのような穴が空いていた。 
斜めの方から、陽が照っている。 
緑のため息、エメラルドの水、 
砂糖水、数字の3、アレカヤシ、瓶の底、ソファ、やわらかな白い岩。 

そして、池の出現。思い出。 
砂ぼこりの化身。





























松本真希  Maki Matsumoto
1982年生まれ 2007年多摩美術大学大学院美術研究科油画専攻修了



a) この大きな水槽の左側には、ヒーターとポンプ、そして水の出てくる穴がついています。
この水はどこからやって来るのか。 
右側の穴から水槽の水を少しずつ吸い出していて、管を通って裏の浄水器へ運ばれています。 
そのフィルターで濾過した水が、左側に戻って来ているのです。 


 b) 祖母がちょうど私くらいの歳のころ、いつもの散歩ルートにある裏山の道で見かけたという出来事です。 
いつも通る三叉路に、三羽の鳥がいた時期があったそうです。 

その三羽は、たまたまいっぺんにここに降り立ってしまい、そしていっぺんに目が合ってしまったのだそうです。
その時点からどの鳥も視線を外せなくなり、幾日もの間、固まったままにらみ合ったのです。 
それから数日間、ここを通るたびに事態がそのままなのでとても気になったけど、
その緊張感に割って入ることはなんだか申し訳なくて、三羽を結んだ三角形の中に入らない位置から、
祖母は黙って眺めたり、脇を通ったのだそうです。 

ところがある日、この光景に気づいたイタチが、一羽をサッと咥えてタタタタタと茂みの奥へ駈け去るところを見てしまいました。
祖母が唖然とする中、二羽が残されました。 
その内、一羽は小首をかしげて少し間を置いた後、「ピッ」と一声発して飛び立ちました。 
その直後、もう一羽はやおら地面に嘴を突き立てると、グッとめり込ませ始めました。
地面を掘り出すと、あっという間、嘴が、体が、地面に埋もれていって、
祖母が駆け寄った時にはもう只の小さな黒い縦穴だったそうです。 

翌日その穴の前を通ると、じんわり水分が滲みだしていました。
その水の量は日を追う毎に増してゆき、小さな湧水地点になり、ひと月もしないうちに近くの沢につながりました。
ここの湧き水は美味しいと、だんだん地元で評判となりました。
現在ではペットボトル詰めが道の駅で販売されていて、私も買って飲んだことがあります。 


 c)私は壁を殴り続けました。壁紙が破れ、ボードがむき出しになり、割れて穴が広がっていきました。やがて暗がり
の中に見えたのは水道の蛇口でした。確かめても、この壁の中にも裏にも水道管は通っていません。 にも関わらず、
その蛇口を捻るとオレンジジュースが出てきました。 私は汗を拭い鼻をすすりあげると、ジュースをコップに注ぎ、
息を整えながらその表面を見つめていました。 「鼻が止まったら、柱になっている角材にチェーンソーを当ててみよ
う、ジュースが溢れてくるかもしれない。」と考えていました。タネが知りたかったのです。


































三津繁郎 Shigeo Mito  
1981年生まれ 2009年 多摩美術大学大学院美術研究科油画専攻修了

shigeo mito HP


部屋に差し込む光の色はカーテンを揺らすかすかな風のせいで目まぐるしく変化して
光が照らす部屋の壁を見ているのか、光が変化させる壁の色を見ているのか、 
射す光を見ているのか、何も見ていないのか、それとも夢でも見ているのか、 
それのどこに焦点を合わせるべきかわからなくなる。 

焦点はオートフォーカスの迷いのようにひと所に落ち着かず、暫くの間 
そんな焦点の合わない揺らぐ図像をただ眺めていると 恋人に名前を呼ばれて、 
何見てるの?と聞かれたので何も見ていないよ、と答えた。 

また、街の雑踏の中、ふいに聞こえて来る音楽があり、どこから
聞こえてくるのかと 辺りを見回すと女の人の押すベビーカーの車輪がきしむ音だった。 

また、薄曇の日の彩度の低い海と空とそれを照らす淡い光と、を見ていたんだけれど、 
知らぬうちに埃に乱反射するキラキラの小さな光の粒を注視していることに気づくと 
目の前にある海も空も徐々にグレーのなかに消失してしまって、 
視界には光の点描だけが残された。 

何かが崩れ落ちて、全く違った物が目の前に突然と立ち現れるそんな時、 
じんわりと足を湿らす水気を感じる。


●アクセス 

[電車] 
JR東海道線早川駅 /東京駅から1時間15分 新宿から1時間半

早川駅から徒歩13分。 
早川駅改札を出て右折。居酒屋や郵便局を過ぎて、 
海沿いの通り(135号線)に出たら右折、10分程歩くと右手にあります。


 [車(東京方面からの場合)]  
西湘バイパス早川ICから、熱海方面へ5分程度。 
早川IC出口から突き当たりの信号を左折し135号線を熱海方面へ。 
そのまま緩いカーブを過ぎると、左手は海と並走するバイパスになります。 
道なりに進み、右手の大きな骨董品屋を越えて、左手の石材屋の手前。 
135号沿いの民家の並びの最後の、白い2階建ての建物です。 
駐車場あります。

※位置は西湘バイパス石橋ICがほど近いのですが、 Uターンができないので遠回りになってしまいます。


「斧とケーブル」 
〒250-0021 神奈川県小田原市早川1-8-1F




より大きな地図で 神奈川県小田原市早川1 を表示



●周囲のおすすめスポット http://bit.ly/12Eiat3
小田原の漁港がほど近く、箱根までももうすぐのエリア。
魚介や温泉を楽しめる地域です。
お時間に余裕があれば、合わせて散策してみてください。

















6/27/2013

展示のための3つのテキスト





a) 
この大きな水槽の左側には、ヒーターとポンプ、そして水の出てくる穴がついています。 
この水はどこからやって来るのか。 
右側の穴から水槽の水を少しずつ吸い出していて、管を通って裏の浄水器へ運ばれています。 
そのフィルターで濾過した水が、左側に戻って来ているのです。 







 b) 
祖母がちょうど私くらいの歳のころ、いつもの散歩ルートにある裏山の道で見かけたという出来事です。 

いつも通る三叉路に、三羽の鳥がいた時期があったそうです。 
その三羽は、たまたまいっぺんにここに降り立ってしまい、そしていっぺんに目が合ってしまったのだそうです。その時点からどの鳥も視線を外せなくなり、幾日もの間、固まったままにらみ合ったのです。 

それから数日間、ここを通るたびに事態がそのままなのでとても気になったけど、その緊張感に割って入ることはなんだか申し訳なくて、三羽を結んだ三角形の中に入らない位置から、祖母は黙って眺めたり、脇を通ったのだそうです。 

ところがある日、この光景に気づいたイタチが、一羽をサッと咥えてタタタタタと茂みの奥へ駈け去るところを見てしまいました。 
祖母が唖然とする中、二羽が残されました。 
その内、一羽は小首をかしげて少し間を置いた後、「ピッ」と一声発して飛び立ちました。 
その直後、もう一羽はやおら地面に嘴を突き立てると、グッとめり込ませ始めました。 
地面を掘り出すと、あっという間、嘴が、体が、地面に埋もれていって、祖母が駆け寄った時にはもう只の小さな黒い縦穴だったそうです。 

翌日その穴の前を通ると、じんわり水分が滲みだしていました。 
その水の量は日を追う毎に増してゆき、小さな湧水地点になり、ひと月もしないうちに近くの沢につながりました。 
ここの湧き水は美味しいと、だんだん地元で評判となりました。 
現在ではペットボトル詰めが道の駅で販売されていて、私も買って飲んだことがあります。 







c)
私は壁を殴り続けました。
壁紙が破れ、ボードがむき出しになり、割れて穴が広がっていきました。 
やがて暗がりの中に見えたのは水道の蛇口でした。 
確かめても、この壁の中にも裏にも水道管は通っていません。 

にも関わらず、その蛇口を捻るとオレンジジュースが出てきました。 
私は汗を拭い鼻をすすりあげると、ジュースをコップに注ぎ、息を整えながらその表面を見つめていました。
「鼻が止まったら、柱になっている角材にチェーンソーを当ててみよう、ジュースが溢れてくるかもしれない。」と考えていました。 
タネが知りたかったのです。